目標とする作品

最後の講座日から約半年が経ちました。
植物や絵画制作が少しでも皆様の癒しになっていることを願っています。
本来講座に費やすはずだった時間に、何かご参考になりそうな話題がないかなと考えてみました。


具体例があると学習しやすくなると思いますので、私がブラシテクニックの目標としている近世の超絶技巧をご紹介します。昨年の研修中の記事でも扱った、18世期のイギリス人画家によるポートレートミニアチュールです。一見すると植物画とは全く異なって見えますが、特定の物体を説明的に描写するところに共通点があります。

この作品は薄くスライスされた象牙の板に、水彩による非常に細かな点描で描かれています。実物のサイズは携帯電話よりも小さいくらいなのですが、十数倍に拡大して見ても全く違和感のない細密さで描かれています。
画家による自画像のため、まるで、「どうだ、ここまで細かく描けないだろう!」と言わんばかりの本人の視線を感じます。いわゆるドヤ顔というのでしょうか…、後に続く者達への挑戦を促しているようにも見えるのです。
分野や画材は異なっても、細密写実絵画を描く者にとっては、間違いなく目が離せなくなる傑作であると思います。

Self-portrait 
John Smart
1797
Victoria & Albert Museum 


無謀にもこの完成度を目指して植物画を制作しています。
高すぎる目標を設定してしまった感があるものの、こんなふうに描けたらいいなという具体例があると、ゴールへの道筋が見えて制作しやすいと感じました。

傑作と並べるのはおこがましいながら、下に自作の部分をご紹介します。
苞葉に包まれたビヨウタコノキの雄花序の上部です。


モチーフが大型だったため、奥行きを意識せざるを得ない構図になりました。省略して手間を省きたいとの甘えもありましたが、遠景になるほど細密に描かれたミニアチュールに触発され、できる限り地道に取り組んでいます。目立たせてはいけない部位に繊細な筆致を積み重ねるというのは、地味な割に神経がすり減るような作業です。
また、ミニアチュールに描かれた白髪を参考に、途中で白い雄花序の背後に葉を描き加えました。ある程度描き進めた段階での構図の変更だったため迷いがありましたが、具体例を参考にしたことで決断しました。

うまくいかず途中で投げ出したくなることも多々ありますが、そんな甘えを古今東西の巨匠達が叩き直してくれます。
時代や言語の壁を超えて学べるというのはじつに便利な手段です。



目標にしたいと思える作品は人それぞれ好みやタイミングで異なります。
皆さんも、心に響く優れた作品、良い目標を探してみてください。

Botanical Art Classes

池田真理子の植物画講座

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