秋講座3回目

前回に引き続き、フェルデナンド・バウアーを一例に、制作前の準備段階に焦点をあてました。

Jane Jelly 氏の研究、「Unlocking the Paintbox」から、長らく謎に包まれていたバウアー作品に記された識別番号の意味をご紹介しました。
私の所属する学会の会報誌で取り上げられていた、近年注目の研究です。

バウアーの作品のもとになったデッサンには、茎や花などのパーツに1から309までの番号が細かく割りふられています。おそらく色を記録したものだろうとは推測できるものの、どのようなルールのもとに300以上もの番号が使い分けられているのかは明らかにされてきませんでした。
なぜなら、一筋縄にはいかない込み入ったルールで数字が構成されていたためです。

研究者でもあり画家でもあるJelly氏は、制作者ならではの感覚を活かし、バウアーの作品とデッサンをひとつひとつ照らし合わせることで、これらの番号の仕組みを明らかにしました。
研究では、1800年代にヨーロッパで推奨されていた約30種類の顔料・染料をもとに、バウアーが用いただろう絵具を特定しています。
この30種類の絵具にさらにプラスして、基準となる20種類の塗りと、9種類の彩色方法が巧みに組み合わされ、識別番号が構成されていると結論づけられました。
複雑な謎がスッキリと解けるのは爽快ですね。

これらの番号は例えば、107「プルシャンブルーに白を2回加えて彩色する」とか、48「カーマインを下塗りする」、194「ガンボージを輪郭線に引く」などの指示を表すことができます。
講座では、実際に番号と作品を照らし合わせ、かなり細かい色のニュアンスまで指定されていることを皆様に確認していただきました。


完成作品を鑑賞する機会というのはよくあることですが、制作の裏舞台はなかなか見られないものです。
過去の作家となれば尚更ですね。
当時の一作家の制作工程を垣間見ることができ、私にとっても大変おもしろい経験となりました。

Botanical Art Classes

池田真理子の植物画講座

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