5月16日
2021年春のオンライン講座第一回目の内容です。
今回は顔料と絵具をテーマにしました。
ボタニカルアートを制作する際、顔料について考える機会はあまり多くはないでしょう。なかなか珍しいテーマだったと感じています。
顔料の製造工程や彩色後の経年変化、市販の絵具に表示されているインデックスナンバーなどをご紹介し、最後には展色剤と混ぜて溶きおろす実演をご覧いただきました。
皆様からも良いご質問をいただき、ありがとうございました。講座内でうまく答えらなかった部分を以下に補足しましたので、ご参考になれば幸いです。
Q1. 耐光性の低いオペラに代わる、鮮やかなピンクはないか?
オペラは鮮やかさが際立つ、花の描写に欠かせない色ですね。何か代わりになるものがないか、主要なメーカーから該当しそうなものを挙げてみました。
【ホルベイン】耐光性の最高値✳︎✳︎✳︎✳︎
オペラ : PV10、PR122、耐光性 ✳︎
キナクリドンマゼンダ : PR122、耐光性✳︎✳︎✳︎
【ウィンザー&ニュートン】耐光性の最高値AA
オペラローズ : PR122+蛍光顔料、耐光性B
キナクリドンマゼンダ : PR122、耐光性A
【シュミンケ】耐光性の最高値★★★★★
ブリリアントパープル : PR81、耐光性評価なし
パープルマゼンダ : PR122、耐光性★★★
【ダニエルスミス】耐光性の最高値 Ⅰ
オペラピンク : PR122+蛍光顔料、耐光性 Ⅳ
キナクリドンライラック : PR122、耐光性Ⅱ
各社で尺度が違いますが、それほど大差ない結果と思えます。PR122の単一顔料であれば耐光性は多少高いようですが、オペラほどの鮮やかさは期待できないでしょう。鮮やかさと耐光性の両方を兼ね備えたものはなさそうなので、作品の用途やモチーフの色合いによって使い分けるのがいいのかもしれません。
ちなみに私は、ダニエルスミスのキナクリドンローズ(PV19、耐光性 Ⅰ)を使っています。そもそも鮮やかな花をあまり描かないので参考にならないかもしれませんが、個人的には耐光性を優先させています。
Q2. シュミンケの水彩絵具に添加されているオックスゴールとは何?
ホルベインのホームページを見ると、「オックス ゴールとは動物の胆汁を主成分とする界面活性剤の一種で、絵具の表面張力を減少させる力がある」と説明されています。
手指の脂やサイジング剤のせいで絵具をはじくような画面に効果的で、絵具に数滴のオックス ゴールを加えることによって、なめらかな滲み表現が可能になるとのことです。
個人的にはシュミンケの絵具を使ってみて、このような特性に気づいたことはありませんでした。水分を多く使う技法でその効果が発揮されるように想像しますが、もしかすると私も知らず知らずのうちに恩恵を得ているのかもしれません。たしかに、油分を含んだヴェラムのうえでも筆運びが滑らかな印象はあります。それにしても、主成分が動物の胆汁とは…なかなか変わったものを添加しているんですね。
ホルベインがオックスゴールを販売していますので、私たちも必要に応じて利用できそうです。機会がありましたらぜひ効果のほどを確かめてみてください。
Q3. 水彩画へのフキサチーフの利用は?
フキサチーフには二種類あり、石油系溶剤を使っているパステル用のものと、合成樹脂とエチルアルコール(エタノール)を使っているその他の画材用があるそうです。基本的にはパステルや鉛筆画など、剥離の可能性が高い画材に使用します
毒性があり、噴霧する際に吸い込まないようにと聞いていますから、もし必要なさそうな場合には多用しないほうが得策でしょう。
またフキサチーフがかかったところには光沢が出ますし、色も微妙に変わってしまいます。メディウムでしっかり定着している水彩画ならば、かけなくとも良いのかなと感じています。
普段はほとんど注目することがないテーマだったので、今回は自分自身でもよい勉強になりました。バーミリオンやコチニールなどの鮮やかな色を間近に見ると、不思議とわくわくさせられるものですね。パソコン画面であの爽快かつ毒々しい美しさが伝わっただろうかと、できれば実物をご覧いただきたかったな…と思うところでもあります。
次回は過去の有名作家ゲオルグ・D・エイレットをとりあげ、構図や絵作りの工夫、制作姿勢などをお話しいたします。
何か課題をご用意できるよう、準備したいと思います。
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